対話型鑑賞(VTS)って、美術館やワークショップでやるものだと思っていませんか?
実は、おうちでもかなり気軽にできちゃいます。……って書くと、「おうちVTS?一緒に絵を眺めればいいんでしょ?」って思うかもしれません(私がそう笑)
ただ、実際にやってみると、「ただ一緒に見る」だけだと親が先に解説しちゃったり、「きれいだね」「すごいね」で終わっちゃったりするんですよね。気軽にできるからこそ、ちょっとした声かけのコツを知っているかどうかで、子どもの反応が全然変わってきます。
わたしは現役の美術館学芸員で、0歳児の母です。ただ、子どもの頃は美術館に行った経験がほぼなくて、家に画集もなかったし、本を読む習慣すらなかった人間です。美術に出会ったのは大学に入ってから。だからこそ、家庭からできる鑑賞教育の大切さを強く感じています。
この記事では、仕事で対話型鑑賞プログラムに関わってきた経験をもとに、おうちVTSの進め方をまとめました。美術の知識は一切いりません!必要なのは「絵を1枚」と「子どもとちょっとおしゃべりする時間」だけです。
▶ そもそも対話型鑑賞(VTS)って何?という方は、こちらの記事を先に読むとスムーズです◎
筆者について
美術館学芸員です
» X @rinhwan_blog
- 公立・私立美術館双方で勤務経験あり
- 美術館で対話型鑑賞ワークショップやギャラリートーク、美術講座などを担当
- 0歳児育児奮闘中💪
おうちで対話型鑑賞ができる理由

「対話型鑑賞って、美術館のプログラムでしょ?家でやって意味あるの?」と思う方もいるかもしれません。
結論から言うと、家庭のほうが向いている部分すらあります。
美術館での対話型鑑賞は...知らない人同士のグループで行うことが多い+限られた時間で進行します。大人でもちょっと緊張しますよね(汗)
一方、家庭でやる場合はこんなメリットがあります↓
- 子どもが安心して話せる(慣れた相手・慣れた場所)
- 時間に縛られない(飽きたらやめていい)
- 日常の会話の延長で自然にできる
- 親が子どもの考え方を知るきっかけになる
VTSの開発者であるフィリップ・ヤノウィンも、対話型鑑賞において一番大事なのは「安心して発言できる環境」だと繰り返し述べています。
それって、まさに家庭そのものなんですよね。
用意するもの
おうちVTSに必要なもの、と言ってもシンプルです。
1. 鑑賞する作品(1枚でOK)
絵画のプリント、画集、図録、アート絵本、ポストカード……なんでも大丈夫◎
スマホやタブレットで表示しても良いのですが、個人的にはプリントアウトか紙の本がおすすめ。
理由は、子どもって「指でさす」「ひっくり返す」「近づけて見る」みたいに体を使って鑑賞するからです。
画面だと、その動きが制限されちゃって勿体無い。
2. 静かすぎない、リラックスした空間
美術館みたいにシーンとしている必要はありません。
リビングで全然OK!
ただ、テレビや音楽などは消しておいた方がいいかなと思います。
3. 親側の「正解を教えたくなる気持ち」を手放す覚悟
これが一番むずかしいかもしれません。
でも一番大事です。 後で詳しく話しますね。
おうちVTSの進め方 5ステップ

ここからは具体的な流れです。美術館で行われているVTSをベースに、家庭向けにアレンジしています。
まず黙って見る(30秒〜1分)
「じゃあこの絵、見てみようか」と声をかけて、まずは親子で静かに絵を見る時間を作ります。この「黙って見る時間」が、実はすごく大事です。
美術館で作品を見る平均時間は、なんと約10秒と言われています。(意外と見てない!)
大人ですらそうなので、いきなり「どう思う?」と聞かれても、見てすらいない状態で答えることになっちゃうんですよね。
30秒でいいので、絵と向き合う時間を意識的に取ってみてください。
「何が描いてあるかな?」と聞く
VTSの基本の質問その1は、「この絵の中で何が起きていますか?(What's going on in this picture?)」です。
なので家庭では、こんな風に聞いてみましょう。
「何が見える?」
「誰がいる?」
「この人、何してるんだろうね?」
ポイントは、「見えるもの」から話を始めること!感想や評価(きれいとか、好きとか)ではなくて、まず「観察」から入るのがVTSの大事なところです。
「どこからそう思った?」と聞く
これがVTSの核になる質問です。英語だと「What do you see that makes you say that?」。
子どもが「この人、悲しそう」と言ったら、「どこを見てそう感じた?」と聞いてみてください。
すると「だって下を向いてるから」「色が暗いから」みたいに、観察と推論をセットで言語化する練習になります。
学芸員の立場から言うと、これはまさに「作品を読む力」そのものなんですよね。美術の知識がなくても、自分の目で見て根拠をもって語る。プロの研究者がやっていることの原点が、実はここにあります。
「他にも何か見つけた?」と広げる
VTSの3つ目の質問「もっと発見はありますか?(What more can we find?)」です。
「さっき人のことを話してくれたけど、後ろの方には何がある?」とか、「色で気になるところはある?」みたいに、少しだけ視点を変えてあげると、子どもはどんどん発見を始めます。
最後にまとめる(さらっとでOK)
「今日は○○ちゃんが△△に気づいてくれたね。面白かったね」と、子どもの発見を認めて終わるだけで大丈夫です。感想文を書かせる必要もないし、「この絵はね、実はこういう意味があって……」と解説する必要もありません。むしろ解説しない方がいいです。理由は次のセクションで。
親がやりがちなNG行動【学芸員として一番伝えたいこと】
ここは学芸員としてのわたしの本音を書きます。
美術館のワークショップで対話型鑑賞をやると、子どもよりも親御さんの方が「正解」を求めてしまう場面をたくさん見てきました。
NG①:先に解説してしまう
「これはモネの絵でね、印象派っていう流れがあってね……」と、子どもが何か感じる前に情報を与えてしまうパターンです。
気持ちはすごくわかります。でも、知識を先に入れると、子どもは「正しく読み取らなきゃ」モードに切り替わってしまって、自由に見ることをやめてしまうんですよね。
解説は、対話が十分に済んだ後で「実はこの絵にはこういう話があってね」と補足するくらいでOK。
NG②:「きれいだね」「すごいね」を押し付けてしまう
これもありがち。「きれいだね」は親の感想であって、子どもの感想ではありません。
親が先に「すごい」と言ってしまうと、感想の押しつけになりがち。
「○○ちゃんはどう思う?」と、あくまで子ども自身の言葉を待ってあげたいところですね。
NG③:「違うよ」と否定する
子どもが「この人はお化けだ!」と言ったとき、「違うよ、これは天使だよ」と訂正したくなる気持ち、めちゃくちゃわかります(笑)。
訂正のつもりはなくて、「こうなんだよ!」と共有したくなる、の方が正しいかもしれませんね。
でも、「お化けに見えたんだ! どこからそう思った?」と聞いてあげると、子どもなりの論理が見えてきて、親の方が驚かされることも多いです。
実際に仕事で経験した場面ですが、ある絵を見て「この人は怒ってるんじゃなくて、泣くのをがまんしてるんだと思う」と言った小学生がいました。
わたしは「怒っている」と思い込んでいたので、はっとしましたね。何度ワークショップをやっていても、子どもの感性に教えられることは本当に多いです。
作品はどうやって選ぶ?おすすめの入手方法
では、具体的にどんな絵を使えばいいのでしょう??
方法1:海外美術館の無料データベースを使う

メトロポリタン美術館やシカゴ美術館は、所蔵作品の画像をオンラインで無料公開しています。パブリックドメイン((著作権が切れていて、誰でも自由に使える状態の作品)なら、ダウンロードしてプリントアウトもOK。
わたしがよく使っているのはメトロポリタン美術館のサイトです。以下のリンクはpublic domainの検索ページですので是非みてみてください。
METは時代も技法も異なる多種多様な作品があって、大人も飽きないですよ
方法2:おうちにある画集や図録

子どもと一緒にパラパラめくって「どれが気になる?」と聞くところから、もう鑑賞は始まっています
展覧会の図録が本棚に眠っている方、ぜひ引っ張り出してみてください。
子どもと一緒にパラパラめくって、「どれが気になる?」と選ばせるところから、もう対話型鑑賞は始まっています。
子どもの興味のある作品がわかってきたら、新たな一冊を一緒に選ぶのも楽しいですね。
方法3:アート絵本を使う
特に小さいお子さんには、アート絵本が入り口としておすすめです。
アート絵本というのは、名画を子ども向けにセレクトして構成した絵本のことです。たとえば結城昌子さんの「あーとぶっく」シリーズ(モネやゴッホなど画家ごとに1冊)や、アメリア・アレナスの『なぜ、これがアートなの?』あたりが有名ですね。
ただ、アート絵本ってけっこう種類があって、対話型鑑賞に向いているものとそうでないものがあるんですよね。
たとえば、解説が多すぎる絵本だと「正解を読む」鑑賞になっちゃって、VTSの良さが消えてしまいます
学芸員目線で「対話型鑑賞に使えるアート絵本」を厳選した記事もありますので興味がある方はぜひ。
方法4:子ども自身の絵を使う
これ、意外と盲点なんですが、すごくおすすめです
お子さんが描いた絵を「作品」として扱って、「何を描いたの?」「ここの色はどうして選んだの?」と聞いてみてください。子どもの自己肯定感がものすごく上がりますし、親が知らなかった子どもの内面が見えてきます。
作品選びのコツ(学芸員的アドバイス)
最初は以下のような作品が取り組みやすいです。
- 人物が描かれている(「何してるんだろう?」と想像しやすい)
- 色がはっきりしている
- ストーリーが読み取れそうな構図
逆に、いきなり抽象画やミニマルアートを使うと「うーん……」で終わりがちです(笑)
慣れてきたら抽象画にも挑戦してみるとまた面白いですよ。
何歳から始められる?年齢別のポイント
0〜2歳:「見る」体験を積む時期
まだ対話はできませんが、絵を見せて「わんわんいるね」「赤いね」と声をかけてあげるだけでも、「見る力」の土台になります。
……とは言え、0歳児相手で「わあ、美術に反応した!」なんて、そうそう起きません(笑)うちの子もそんな感じ。
今はとにかく、生活のなかに絵がある環境をゆるく作っておくことが大事かなと思っています。反応がなくても焦らなくて大丈夫です。
3〜5歳:「何が見える?」が楽しくなる時期
語彙が増えてきたら、本格的に対話型鑑賞を始められます。「何が見える?」「どこからそう思った?」の2つの質問だけでも、びっくりするくらい会話が広がりますよ。
6歳〜:「なぜ?」を深く考えられる時期
小学生くらいになると、「この絵は好き/嫌い」の先にある「なぜ好きなのか/嫌いなのか」まで言語化できるようになります。
論理的思考力が育つ時期なので、対話型鑑賞との相性がとても良いです。
まとめ:完璧にやろうとしなくていい
最後にお伝えしたいのは、おうちVTSは「ゆるくていい」ということ!
むしろ「ゆるく実践できる」のが、おうちのメリットです
5分で飽きたっていいし、「わかんない」で終わっても全然OK。たぶん、画集広げたところで、全く興味を持たない日だってあるでしょう。離乳食を食べてくれない時と同じ「思い通りにならなさ」があるかもしれません(笑)
大事なのは、「絵を一緒に見て、ちょっと話す」という体験を積み重ねることです。
わたし自身、学芸員として鑑賞教育に関わってきましたが、正直に言うと、自分の子どもに対してうまくできる自信はありません(笑)画集をバシバシ叩く日もあれば、素通りの日もあります。でも、だからこそ一緒にやっていく過程そのものを大事にしたいなと思っています。
このブログでは対話型鑑賞やVTSに関する情報をほかにもまとめています。気になる方はぜひ読んでみてください。

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