美術館学芸員のりん(@rinhwan_blog)です
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美術館で作品を見ることはお好きですか?
作品の事前知識がないと楽しめなさそう、と思う方も多いかもしれません。
私は仕事柄、全国の展覧会をみて回る機会が多くあります。
ですが!
「この作風は1920年代の...あの作家の影響を受けているな」なんて毎回考えているわけではありません。
このおじさんの目、つぶらで可愛いな
とか
この色ってリビングのカーテンに合いそうだなぁ
とかぼんやり考えてます(笑)
むしろその方が多いかもしれません。
本記事では気軽に美術館を楽しむコツを紹介しているので、気に入ったものがあればぜひ試していってくださいね!
以下では美術館レポートの書き方を紹介していますが、鑑賞に役立つことも色々書いています。興味がある方は是非!
美術鑑賞の基本|正解はないけどマナーはある
美術鑑賞に決まりはありません。
作品や作家、あるいは時代背景などの知識がなくても全然OK。
横に添えられた解説文も、読みたい時に読めばいいのです。
でも、知識があったら楽しみ方の幅が広ります
ただし作品の安全を守ったり、他の人の鑑賞を邪魔しないためのルールやマナーは存在します。
鑑賞マナーと服装マナーについては以下の記事で詳しく解説していますので、美術館に行く際には是非チェックしてみてくださいね。
美術館の楽しみ方【こうやって見る】
作品への感想を持ってから解説を読む
どんなことでも良いので、自分なりの感想を持ってからタイトル/解説を見るようにしましょう。
例えば、
色が暗くて憂鬱になる...
とか
顔がドアップで圧迫感があるけど、勢いがあって好き!
そんな感じでOK。
例えば、この絵を見たらどんな風に感じますか?
青と黄色のコントラストは、画像で見てもキラキラと綺麗ですね。
でも、この絵には画面では伝わらない魅力がたくさんあります
例えば、分厚く塗り重ねられた油絵具の粗々しさ!
ぐるぐる細かく折なされる筆の渦を目の前でじっと見ていると、水面が動いて見えたり星々が本当に煌めいているように感じるのです。
こんな風に、実際に作品を目の前にして感じる気持ちを大切にすることこそが鑑賞の第一歩。
自分で何かを感じる前に情報を読んでしまうと、その先入観で作品を見てしまいます。
まずは純粋な表現を楽しむためにも、自分で考える→解説を読む の流れを癖つけてみましょう!
作品リストに感情を記録する
美術館を訪れた際には、ぜひ作品リストを活用してください。
展覧会を回っている最中に「これは!」と思ったものに印をつけておけば、帰宅してから自学することができます。
でも、その時その場であなたが感じた感情は、あなたが美術館に足を運んだからこそ出会えた宝物。
だからこそ、強い感情を抱いた作品に対してはその「感情」をメモしておくのがオススメです。
作品に対する第一印象は大切にしたい!
感情を記録しておけば、後で調べた際にも
「そうそう、そんな風に感じたんだ」と楽しい体験を何度でも思い出すことができますよ。
「見たい作品」を事前に見つけておく
どこからどんな風に見て良いか分からない...
そんな方は、まず自分が「絶対に見たい目玉作品」を決めておくと◎
目的を持つと、見終わった後の満足度も自然と上がります。
展覧会の目玉作品などは、開催前からホームページで確認できることが多いです。
イベント情報や割引情報などはもちろん、「みどころ」を紹介してくれているサイトもあるので、積極的に活用しましょう!
表現に日常との繋がりを見つける
気づいたら作品よりも解説パネルを見ているかも...?
それなら、作品の中に「日常に取り入れられる表現」を探すのもおすすめです
例えば、意外な色の組み合わせ。
自分の生活にとりいれられる着想源を探しながら作品をみると、自然と作品の表現に目を向けることができます。
解説よりも、まず作品の色や形、テクスチャー自体に集中できますよ。
作品もより身近に感じられて、美術鑑賞が楽しくなります。
展覧会だけではなく美術館のことも調べてみる
お目当ての展覧会だけではなく、その展覧会を開催している美術館そのものについて調べておくこともオススメです。
最近は海外美術館の作品を丸ごと借りてきて展示するというような展覧会が人気ですが、それだけだと伝わらないのが美術館の魅力。
せっかく現地に赴くなら、その美術館の常設展示や野外彫刻、建築などの情報も調べておくと◎
より充実した「美術館体験」になると思いますよ。
圧倒的な常設展示を楽しめる東京都現代美術館や、野外彫刻を存分に楽しめる箱根彫刻の森美術館からスタートするのもオススメ。
展覧会の裏側を知る
普段足を運んでいる展覧会がどのような人たちによって作られているのか、どうやって作られているのかを知ると、また違った側面から楽しめます。
美術館によっては時折バックヤードツアーを実施しています。HPなどでチェック!
他にも、
- そもそも展覧会は誰が企画しているのか
- 作品はどのようにして壁にかけられていくのか
- 作品を支える展示台は誰が作っているのか
- チラシに書かれた「協催」の意味
などなど...
知っていると面白そうだと思いませんか?
これらについては以下の記事で紹介しているので、興味がある方はチェックしてみてください。
【応用編】人が作品に見出してきた意味・価値を考える
さて、作品はそもそも複数の意味を持っています。
次のように区分することもできるでしょう。
作品が持つ4つの意味
- 作者にとっての意味
- 発表当時の観衆にとっての意味
- 後世の観衆にとっての意味
- 今日の私たちにとっての意味
例えば、私たちはゴッホの人生を知っていますし、当時は作品が売れなかったことも知っています。
ゴッホの作品が誰にも相手にされなかった当時の観衆と比べれば、私たちは全く違う印象を持っているはずです。
美術館で展示されている作品はどれも、制作されてから様々な評価の歴史を辿ってきています。
「作家が考えた意味」と「評論家が解釈した意味」も、実は全く違うかもしれません。
そういった意味でも、あなたの感想と作品解説が違っても気にする必要はありません
このような評価の変遷を辿ってみると、作品への理解が一気に深まります。
同時代評(作品が発表された当時の評論)に関心がある方は、以下で紹介している無料データベースも参考にしてみてください。
美術館の楽しみ方【こうして周る】
展覧会序盤で時間をかけすぎない
「よし!みるぞ〜〜!」といって最初の解説から熟読する必要はありません。
実は、展覧会でもっとも混みやすいのは第1展示室。(目玉作品などをのぞく)
特に大型展示の場合には、第1展示室は大混雑、なのにそれ以降はスカスカということが多いのです
意気込んで展覧会に足を運んでいるので、序盤であればあるほど皆熱心に解説を熟読する傾向にあります。
だから入場早々、人混みで作品が見えない!なんてことがよく起こってしまうんです。
最初の方で疲れ切って、お目当ての作品が来たときには「もういいや〜...」なんてことに
少し進めば随分快適に作品が鑑賞できる、というのはよくあります。
人が群がっているようなところはあえていったんスキップして後で鑑賞するのをオススメします。
混雑には必ず波があるので、空いている場所を狙ってまわりましょう。
鑑賞はできる限り身軽な格好で
大規模な展覧会であれば急ぎ足で見ても60分、ある程度しっかり鑑賞しようとすると90〜120分はかかります。
展示室には椅子がありますが、数に限りがあり座れないことも多いです。
立ち止まったり歩いたりを長時間繰り返すため、肩や腰も想像以上に疲れます。
展覧会に行く際には展示室で持ち運ぶ用の小さなバッグを用意し、財布やスマートフォンなど貴重品のみ持ち歩くようにしましょう。
他の荷物はコインロッカーに預けましょう!
無駄に体力を消耗せず、最後まで作品鑑賞に集中することができます。
体調不良の際は再入場について相談する
適宜休憩を取れれば良いですが、展示室内の椅子は空いていないことも多いです。
人混みや水分不足などで気持ち悪くなってしまうこともあるかもしれません。
めまいなどで倒れてしまってはご本人はもちろんのこと、周りの人、作品にも危険が及ぶかもしれません。
体調不良の際には、迷わず展示室内のスタッフに声をかけましょう
美術館は裏に救護スペースが準備されているところもあります。
場合によっては再入場できることもありますので、「せっかく美術館に来たのに...」と無理はNG!
美術の学び方【これでインプットする】
自由に!知識なんてなくても楽しめる!と散々言いましたが、もちろん「知識と共に楽しむ」鑑賞も最高です。
知識というと身構えてしまいますが、実際事前に勉強していることで作品を見た時に「あ〜!これ知ってるぞ!」という喜びや「この日本人画家の絵はフォーヴィスムのような大胆さがあるから、もしかしてフランスに留学していたんではないだろうか?!」なんていう具体的な解釈の広がりがあるものです。
美術館に慣れてきたら、お気に入りの作家や作品を調べてみてください♪
以下ではお気に入りの美術関連書籍や映画をまとめていますので、ご興味がある方はぜひ。
美術初心者にも玄人にもオススメのデータベースをまとめています
美術館の楽しみ方|まとめ
いかがでしたか?
本記事では、美術館の周り方、作品の見方について提案しました。
鑑賞の仕方は人ぞれぞれですので、気に入った項目だけ取り入れればOK。
「ああやって見ないと!」と考えたり、解説を見て「自分の考えは間違いだったんだ」と思う必要はありません。
1番大切なのは、作品を目の前にした自分の感情と向き合うこと
ぜひ気軽に展覧会へ足を運んで、素敵な鑑賞体験をしてください♪