筆者について
現役学芸員のりん(@rinhwan_blog)です
- 正規雇用の美術館学芸員
- 西洋美術史で修士号を取得
- 仕事柄、大量の美術本を読む
- 国際シンポジウム、学会で発表経験あり
本サイトでは、学芸員を目指していた頃の自分が知りたかったこと等を紹介しています
美術について勉強したいけど、まず何から読めばいいか分からない
入門書は卒業したいけど、難しすぎたらどうしよう
そんな方向けの記事です!
この記事では、主に入門〜中級者向け、広い分野を扱うものを紹介しています。「美術に興味を持ち始めたばかり」という方も「入門書だと物足りなくなってきた」という方にもオススメできる本たちです。
私が実際に読み「本当に良かった!」と思ったものだけを厳選していますので、是非参考にしてみてください。
紹介しているカテゴリ
- 美術史の永遠のバイブル
- 「美術を書く」ための指南書
- 気軽に楽しめる美術本
- 鑑賞を助ける美術本
- 西洋美術のおすすめ本
- 印象派周辺、パリを学ぶ美術本
- 日本美術のおすすめ本
- 美術・アートにまつわる小説
- 美術展カタログ・図録
- その他の美術本
記事の最後には「専門分野の書籍/海外論文の取り寄せ」についても書き添えています
※他にも紹介してほしいジャンルがある方は、お気軽に問い合わせフォームからご連絡ください
美術史の永遠のバイブル
美術の物語
初版から70年以上たった今でも売れ続ける超ロング&ベストセラー!
小説家の原田マハさんもオススメされていたので、ご存知の方も多いかもしれません。
ラスコーの洞窟壁画から現代アートまで、美術が歩んできた壮大な道のりをやさしく身近な言葉で教えてくれます。美術が当時の社会や歴史的背景とどのような関係にあったか理解できるはず。
美術について何も知らなかった高校生の頃でも、美術館学芸員になった今でも心に響く本です!
執筆でつい難しい専門用語を使いたくなってしまう時、分析に凝りすぎて作品の魅力を忘れてしまいそうな時、何度も読み返す名著です。
作品の魅力に引き込まれ、どんどんページをめくってしまうこと間違いなし!ただの知識の羅列ではない、まさに「美術の物語」。
美術の初心者にも、美術を勉強してきた人にも読んでほしい一冊です。
「美術を書く」ための指南書
美術を書く
美術に関する文章を書きたいすべての人に向けた、「美術を言葉で表現する」ための指南書。
レポートや論文、作品解説、展覧会レビュー等の文章ごとに、
- 執筆の基本姿勢から具体的な文章技術
- 作品に対する目の付け所
- データベースの使い道
などを徹底解説しています。
研究を進めるにあたって確認するべきこと、注意した方が良いことや役立つノウハウなど懇切丁寧に解説に教えてくれます。
チェックリストなどを交えながら読者を導いていて実践しやすいのも嬉しい
気軽に楽しめる美術本
366日の西洋美術
366の名画を1作品ずつ解説していく美術本です。
「美術史」「主題」「ジャンル」「画家の逸話」「画法・技術」「謎・フェイク」「周辺」の7つの共通テーマにカテゴライズされているので興味があるところから読み始めてもOK。
「描かれたモデルは誰なのか?」「絵に隠された秘密」「制作方法」など一つの視点に絞って解説してくれるので、話がまとまっていて無駄がありません。
「366日シリーズ」は世界遺産や美しい都市など色々あって楽しいですよ
366日 絵のなかの部屋をめぐる旅
海野弘さんの366シリーズの中でも、こちらが特におすすめ!
フェルメール、マティス、ハマスホイなど巨匠たちの名画から、北欧やアメリカ、ロシアなどの知られざる名作まで366作品を紹介しています。
解説量は多くはないので、室内画への誘いといったところでしょうか。
装丁もかわいいし、知らなかった室内画も出てきて楽しい!
ポイントは絞りながらも、室内画を鑑賞する際の目の付け所を学べます。
親密画・室内画に好きな人にはたまらない一冊です。
図版が大きく、謎に包まれた室内の魅力がひしひしと伝わってきますよ。
画家たちのパートナー その愛と葛藤
画家と、そのパートナーたちについて描かれた本。
セザンヌやモネ、モリゾなど印象派の画家を中心に15人の私生活に迫ります。
彼らが何を愛し、何に悩み、どんなことに希望を見出していたのかを知ると、描かれた作品がぐっと身近に見えてくるもの。
パトロンやミューズの存在について知ることは、美術鑑賞の基本の一歩です。
画家の私生活をめぐるストーリーに興味がある方は、原田マハ『ジヴェルニーの食卓』もおすすめです。
画家の生涯を知りたい方は映画もおすすめ
天使と悪魔の絵画史 キリスト教美術の深淵に触れる
「キリスト教美術には疎いけど、これからきちんと勉強していきたい!」という方にオススメ。
誰でもわかるキリスト教!みたいな入門書を買うなら、入門〜中級の本書を買う方が個人的には良いと思います。
今後の勉強にも重宝しますよ。
キリスト教美術のエッセンスごとに分けられた4章構成で、キリスト教に明るくても興味を持って読み切れるのが◎
- 最後の審判
- 天国と地獄
- 天使の系譜
- 悪魔の系譜
美術鑑賞に関する本
絵を見る技術 名画の構造を読み解く
展覧会の解説パネルに「どこが"調和が取れている"の?!」「その説明はこじつけでは?」と言ってしまいたくなる人におすすめしたい一冊。
本書では、徹底して論理的に「絵を見る技術」を紹介しています。
個人的には論理的に攻めすぎる鑑賞は好きではありませんが、選択肢としてこのような思考を覗くことはとっても大切。
新しい着眼点を教えてくれます
なんとな〜く不安になる絵だなと思ったら、実は心理的に訴えかけるよう計算された構図や配色だったり、画家の努力も見えてきますよ。
一つの見方として本書を吸収し、自分の鑑賞体験にうまく取り入れてみましょう。
まなざしのレッスン 2西洋近現代絵画
※1は西洋伝統美術編、2は西洋近現代美術編です。
研究の世界で西洋近代美術といえば、東京大学の三浦篤先生。
本書は、三浦先生の東大講義をベースにしています。
東大講義と聞くと基礎知識がないと難しそう...と思うかもしれませんが、終始簡潔な説明で読者を置いてきぼりにしません。
名画を一点ずつ説明するというような書籍ではなく、「どのように見るか」の入門書です。
東京藝大で教わる西洋美術の見かた 基礎から身につく「大人の教養」
東京藝術大学の講義に基づいて作られた西洋美術の入門書です。
図解やビジュアル面の補助がかなり丁寧で、本当に講義を受けているように読み進めることができます。
名画に隠された秘密や、びっくりするような事実を取り上げていて、美術に明るくない人でも楽しく読み進められますよ。
読んでいるうちから、自分でもっと調べたい!という気持ちになるはず!
西洋美術のおすすめ本
西洋美術史
西洋美術史に関する解説本・入門本は色々ありますが、その中でも美術出版ライブラリーから出ている『西洋美術史』がおすすめ。
図版もカラーかつ大きくて読みやすい!
最新の研究や視点を取り入れながらも、文章は冗長でなく分かりやすいです。
内容が盛りだくさんなので、これから本腰入れて勉強していくぞ!という方でも、すでにある程度知識がある方でも楽しめる一冊ですよ。
美術でめぐる 西洋史年表
美術史学習には、時代背景の理解が必須です。
本書は、名画の時代背景や重大事件をビジュアル年表付きで解説しています。
名画や流派の関係性や流れを整理するのにぴったり!
直接絵画に描かれていなくても、制作手法や主題なども当時の社会背景と深く結びついています。
例えばカメラや新たな絵の具の登場、戦争による制作道具の価格高騰や、街の大整備などですね。
当時の人たちの暮らしについてのコラムもついていて読みやすいですよ。
印象派周辺、パリを学ぶ美術本
印象派とその時代: モネからセザンヌへ
2002年に秋田県立近代美術館、埼玉県立近代美術館で開催された展覧会の図録が単行本化されたものです。
印象派とその時代への理解を深める小事典や関連年譜、画家と批評家の言葉、関連地図や文献目録など、印象派について学びたい方は必見の書籍です。
高階秀爾先生、また三浦篤先生や鹿島茂先生などフランス近代美術やパリといえば!な面々が寄稿しています
印象派・ポスト印象派の作品の意義を、近代絵画史の枠内に留まらず、当時の歴史的・社会的・政治的な文脈に照らし合わせて再考されています。
買って損なし!
19世紀パリ時間旅行 失われた街を求めて
フランス文学者・鹿島茂先生の『芸術新潮』連載「失われたパリの復元」をもとに集約されたパリの姿。
約400点の地図・書籍・版画・油絵を巡りながら、ナポレオン3世によるパリ大改造(1853-1870)以前と以後のパリの全体像に迫った一冊です。
徹底した解説に加えて、絵画や版画をはじめ、衣装や挿絵などとにかく資料が充実しています。
すでにある程度パリに明るい方にとっても、そうでない方にとっても退屈しない構成で「失われた街」19世紀の古き良きパリの姿を魅せてくれます。
日本美術のおすすめ本
あやしい美人画
妖艶な美しさでみるものを惹きつける妖しく危険な美人画の数々を紹介した1冊。
高貴な女性が格調高く描かれた日本美術子の流れにおいて、市井の女性に妖艶な美しさを見出した画家もいました。
上村松園の《焔》や橘小夢の《水魔》など、ぞっとする名作が収録されています。
怖いもの、醜いものに何故か惹かれてしまうのが、人間の性。
正統派美人画だけではなく、人の心を見出す「あやし」の美人画を楽しんでみませんか?
日本美術史
西洋美術史専門の筆者でも読みやすく学べた1冊です。
苦手な日本美術史対策(学芸員試験対策)としてお世話になりました...。
大声では言えないけど、日本美術史はあやふやにやってきてしまった西洋美術専門の方へ。※西洋美術史版もあります。
近代京都日本画史
美術史における幕末〜戦後の時代は、ちょうど学びにくい穴の開いた時代。
本書はそんな近代京都日本画の流れを、フルカラー図版と画家紹介、コラムを使って解説しています。
各章の最後には「深く知りたい方への文献案内」、巻頭・巻末には系図・関係図・年譜等もあるので、自学の補助にもなります。
かゆいところに手が届く美術書です!
眼の神殿 ――「美術」受容史ノート
美術が「制度」として確立していく過程、そして日本における美術がどのように形成されてきたかを入念な史料分析とともに解説しています。
作家本人や鑑賞者の視点に加えて、社会が築き上げた「美術」のあり方を研究することは、ありとあらゆる美術を研究する際に欠かせません。
美術史研究を一変させた衝撃の美術書で、長く入手困難でした。在庫があるうちにぜひ
美術・アートにまつわる小説
ジヴェルニーの食卓
原田マハさんの小説です。美術にあまり興味がない方も名前を聞いたことがあるかもしれません。
ご自身がキュレーターをされていた関係で、美術・アートをテーマにした小説は他にもいくつか書かれています。
その中でも『ジヴェルニーの食卓』は、画家や作品を研究したいという方に読んでほしい本です
本書では、実話にフィクションを交えながら画家一人一人の人生が切り取られています。
私自身が、作品や画家の人生について突き詰めてみたいと思ったキッカケの本です。
あくまで短編集ですので「学習する」本ではありませんが、美術と向き合うモチベーションを貰うことができました。研究の息抜きに、読んでみてくださいね。
モチベーションアップには映画もおすすめ
天使と悪魔
ハーヴァード大学の図像学者ラングドン教授が謎を解明していくシリーズのうちのひとつ。
ダヴィンチコードも有名ですね。
「天使と悪魔」では、ヴァチカンを舞台にして秘密結社「イルミナティ」の伝説の紋章を解き明かしていきます。
美術作品を中心に展開されていくわけではありませんが、作中にはヴァチカンの街や秘密がたくさん出てくるので美術ファンなら惹き込まれてしまうこと間違いなし。
私もすっかり聖地巡礼したくなり、ヴァチカンで「天使と悪魔ごっこ」してきました...
インフェルノ
こちらも『天使と悪魔】と同じラングドン教授シリーズの第四弾!
人類の半数を滅ぼす生物兵器の阻止をめぐり、協力を要請されたラングドン教授。ダンテ『神曲 地獄篇』を描いた、ボッティチェリの《地獄の見取り図》の中に隠された謎を解明していきます。
作中では図像学者ロングドン教授の知識を通して、美術作品やフィレンツェの街について知ることができるので、美術ファンならワクワク間違いなし。
ヴェッキオ宮殿のインフェルノ・ガイドツアーでは、隠し扉や天井裏、秘密部屋に入ることができて、おすすめです!
その他の美術本
現代アート10講
現代アートが苦手な人にこそオススメ。
複雑な現代アートの諸潮流が何故、どのような社会背景で生まれたのかを解説している一冊です。
様々な視点から現代アートの概念にアプローチしており、考える力が身につきます
個人的に、学芸員試験にもかなり役立ちました。
現代アート関連の美術書を読むことは、美術関連の文章を書く土台づくりになります。
最新の情報であることは、決して最重要事項ではありません。
現代アーティスト事典
こちらは、1980年代以降の現代アートを初心者にも優しく、上級者でも退屈しないよう紹介してくれる書籍。
作家ごとだけではなく、第二章では現代アートを6つのテーマから解き明かします。
「現代アート」がどのように評価されてきたのか理解を深めるきっかけになるでしょう。
また、略歴や代表作、解説などが作家ごとにページ内でよく収まって読みやすい◎
現代アートに関するエッセイも収録されているので、初心者だけではなくある程度現代アートを勉強している人も楽しめます。
現場で使える美術著作権ガイド2019
2011年度版の増補改訂版。
著作権保護期限が著作者の死後70年まで延長されたことをなど重要な変更点が反映されています。
こちらは2019年のものなので、その後の変更もありますが、美術著作権に関する書籍で1番よくまとまっていると思います。(2024年時点)
論文を執筆する際、また学芸員になった後の現場でも重宝した1冊です。興味を持ちやすいコラムもあって読みやすい!
» 全国美術館会議HP
※各所で品切れ中
【受賞歴あり】美術展カタログ・図録
展覧会によっては展覧会カタログが発行されることがあり、会場で購入できたりしますよね。
通常、展覧会概要や出品作の図版に加えて、専門家や作家、学芸員の解説や論文が掲載されています。何年もかけて多くの人が関わりつくられた美術展の努力の結晶です。
本記事では、受賞歴のある展覧会図録をいくつかピックアップ!手元に置いて損はしませんよ。
日本におけるキュビスム―ピカソ・インパクト
\美連協カタログ論文賞受賞/
日本がいかにキュビスムを吸収してきたかを振り返る展覧会カタログ。
ピカソに代表されるキュビスムは、フォーヴィスムやシュルレアリスムと同じく日本に上陸し広く影響を与えました。
特に本書では、キュビスムが2つの別々の時代・文脈において受容されたと仮定し、それぞれの作品を振り返っています。
そのままピカソじゃん!と言いたくなる作品や、この辺はそんなふうに見えるかも?など、自分なりにキュビスムを見出してみるのも面白いですよ。
生誕260年記念企画 特別展「北斎づくし」完全ガイド
\第63回 全国カタログ展金賞/
展覧会をダイナミックに体感できる超大判の特製カタログです。
どの作品もユーモラスで、思わず笑みがこぼれてしまう1冊。
Amazonで試し読みもできますので、興味がある方はのぞいてみてください。
\Kindle本もあるのが嬉しい/
【学芸員を目指す方へ】専門分野の書籍や論文について
教授の著書・論文について
ご自分の専門分野においては、その道で有名な教授の著書や論文に目を通しておいてください。
学芸員を目指している学部生の方は、少なくとも、進学を考えている研究室の教授の著作や論文は必ずチェックしましょう。
▼ 大学院選びについては以下の記事でも触れています。
【時間がかかるので要注意!】海外論文や資料の入手について
海外論文や資料について、私は以下の場所を利用しました。
- 現地の図書館のホームページ
無料配布していない場合は、メールで事情を連絡する。 - 現地の美術館のホームページ
例えばニューヨークMoMAもお金を払えば資料を送ってくれます。 - 作家の財団や私立美術館ページ
問い合わせれば、PDFで資料を送ってくれたります。小切手送金が多い印象です。
返信やデータの添付には相当な時間がかかる恐れがあるので注意してください。
数ヶ月〜半年以上かかる場合もあるので、修士論文執筆の際に必要だと気づいた頃には遅いかも
もし修士2年で論文を仕上げようと思っているのなら、修士1年目に必要な海外資料を洗い出し連絡できていると安心です。
ちなみに、連絡しても返信がこないところも多いので、落ち込む必要はありません。
財団や図書館の返信率や速度については、研究分野が似ている先輩に聞いてみると情報を得られるかもしれません。
メールを送る際には、丁寧に研究意欲を示し、資料の使用目的を明確にしましょう!
【まとめ】学芸員が選ぶ美術史・アート系のおすすめ本
いかがでしたか?
美術史のバイブルや日本美術史が苦手な方におすすめな本、そしてモチベーションが上がる美術関連の小説まで、いくつかおすすめの美術本をピックアップしました。
比較的初心者向けですが、筆者は今も時々読み返します
また、研究論文や海外資料について気をつけたい点にも触れました。
ズバリ、書籍・論文・資料の取り寄せは時間がかかる!!!
気づいたら遅かった...とならないよう、研究は計画的に!