対話型鑑賞(VTS)とは?美術館の鑑賞教育とその教育効果

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対話型鑑賞(VTS)とは? 思考力を育てる鑑賞教育 (1)

美術館で作品を見ていると、「この絵はどう見ればいいのだろう」と感じたことはないでしょうか。

対話型鑑賞(VTS)は、美術館の教育プログラムでも広く使われている鑑賞方法です。

作品について対話しながら理解を深めていくのが、その特徴!

美術館の教育プログラムでも取り入れられ、思考力や観察力を育てる教育方法として注目されています。

筆者について

美術館学芸員です
» X @rinhwan_blog

  • 美術史の修士号を取得
  • 公立・私立美術館双方で勤務経験あり
  • 美術館で対話型鑑賞ワークショップやギャラリートーク、美術講座などを担当

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対話型鑑賞(VTS)とは

さて、対話型鑑賞でまず重要なのは「正解を教えない」という点。

対話型鑑賞(VTS)のポイント

  • 正解を教えない
  • 観察 → 発言 → 対話

人は「答え」を聞くより自分で解釈する方が思考が活性化すると言われています。

その考え方はとてもシンプルで、

作品を見る

自分の考えを言う

根拠を説明する

他者の意見を聞く

というプロセスを通して考えを深めていきます。

VTSにおいて、鑑賞は思考のトレーニングの場なのです。

私自身、フィレンツェの美術館で学芸員による対話型鑑賞プログラムに参加したことがありますが、作品を前にして深い対話が生まれていく体験がとても印象的でした。

対話型鑑賞の進め方

対話型鑑賞では、作品について対話を通して理解を深めていきます

基本となる進め方は次のような流れです。

まず(作品についての解説を学芸員が行うのではなく)子どもたちの発言をもとに対話を進めていきます。

代表的なのは次の3つの問いです。
※英文は開発者Philip Yenawineの原文

代表的な3つの問い

  • 何が起こっていると思いますか?
    (What’s going on in this picture?)
  • どこからそう思いましたか?
    (What do you see that makes you say that?)
  • 他に気づいたことはありますか?
    (What more can we find?)

このような問いを通して、子どもたちは作品をよく観察し、自分の考えを言葉にしていきます。(各問いの教育効果はこちら

訳に違和感?

VTSでは「どこからそう思いましたか?」という質問がよく使われます。少し独特な言い回しに感じるかもしれませんが、英語の原文は “What do you see that makes you say that?” です。
少々尋問のニュアンスが出る「なぜそう思いましたか?」ではなく、「どこを見てそう思ったのか」と観察に立ち返る問いになっているのが特徴です。

→ 対話型鑑賞の具体的な進め方については、別記事を鋭意作成中!

 

なぜ対話型鑑賞は教育効果があるのか

観察力を深める問い

VTSの最初の特徴は、観察を促す問いです。

何が起こっていると思いますか?

普通の鑑賞はこうなります。
作品を見る→説明を聞く

しかしVTSは逆。
作品を見る→自分で意味を探す

説明を聞くと、「そうなんだ!」と思う反面、そこで観察をやめてしまいませんか?

でも「問い」を与えられると、作品の細部を探し始めるはずです。

教育学ではこれを

active observation(能動的観察)

と言います。

この段階で育つ力

  • 観察力
  • 注意力
  • 根拠探し

思考を言葉にするプロセス

次の問いは、

どこからそう思いましたか?

これがとても大切!

なぜ?と、理由を求めていますよね。

(当然のことを言っているようなのですが、意識して問いかけ意識して声を拾うことが重要。)

要。)

つまり

観察

推論

言語化

このプロセスは

批判的思考(critical thinking)

の基本構造です。

子どもはこのプロセスを通して

この段階で育つ力

  • 根拠を考える
  • 思考を整理する
  • 自分の考えを説明する

ようになります。

美術鑑賞が思考教育になる理由はここにあります

他者の視点を理解する対話

そして次に、他の子どもたちとの意見の共有です。

他者と意見を共有すると何が起きるのでしょうか?

自分の解釈

他人の解釈

視点の比較

ここで重要なのは「正解がない」と知ること!

この段階で育つ力

  • 他者の視点を受け入れる
  • 自分の考えを修正する
  • 多様な解釈を理解する

教育心理学では

social cognition(社会的認知)

と呼ばれる能力です。

まとめ:非認知能力に繋がる対話型鑑賞

以上、対話型鑑賞のメカニズムを整理しました。

観察→思考→対話

を通して育つ力が

  • 思考力
  • 言語能力
  • 他者理解
  • 自己表現

昨今注目されている「非認知能力」にもつながっていくと言えるでしょう。

対話型鑑賞が生まれた背景

研究としての鑑賞教育の誕生

VTS以前の「美術教育」というのは単純だったと言えるかもしれません。

作品の知識を教える。時代背景やモチーフを理解して説明する。

つまり「正解を教える教育」です。

ところが20世紀後半になると、研究者はこう考え始めます。

人は作品を見るとき、どんな思考をしているのか?

そこから美術鑑賞そのものを研究する分野がうまれました。

美術館は「作品を展示する場所」であると同時に「人の思考を観察する実験場」にもなったのです。

VTSの開発者

鑑賞の発達研究 - Abigail Housen

彼女の理論(Aesthetic Development Theory)は、簡単に言うと「人の鑑賞力は段階的に発達する」という研究で、鑑賞力は訓練や経験で育つ能力であるという考え方に基づいています。

彼女は数千人の鑑賞発言を分析して「美術作品の見方は生まれつき決まっているものではなく、経験を通して発達していく」と考えました。

研究から生まれた教育法【VTS 】- Philip Yenawine

Abigail Housenの研究を Philip Yenawineが教育に応用したもの、それがVisual Thinking Strategies(VTS)です。

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こちらは Philip YenawineによるVTSの基本書で、理論だけでなく

  • 具体的な質問
  • 授業の進め方
  • 鑑賞の発達段階

などが書かれています。

美術館での鑑賞教育の実践

美術館の役割は作品展示だけではありません。

多くの美術館では「教育普及」と呼ばれる活動を行い、子どもや一般来館者が作品と向き合う機会を提供しています。

・学校への出張授業
・美術講座
・ギャラリートーク
・ワークショップ

など...

最近では学校連携プログラムや対話型鑑賞ワークショップも増えていますね。

私たち学芸員はこうした活動を通して、皆さんと対話ができたらと思っています

対話型鑑賞(VTS)をもっと知りたい人へ|おすすめ書籍

対話型鑑賞についてさらに知りたい方のために、参考になる書籍も紹介します。

  • フィリップ・イエナウィンの著書『VTS 見る力が育つ対話型鑑賞』

おすすめポイント

  • VTSの考え方や実践方法がわかりやすく解説されている
  • 児童・生徒から大人まで、幅広い対象への授業・ワークショップ事例を掲載している

現在は入手が難しい場合もありますが、大学図書館などで所蔵されていることがあります。

また、先に挙げた英語版であれば普通に手に入ります。

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まとめ|対話型鑑賞(VTS)は思考を深める鑑賞方法

対話型鑑賞(VTS)は
・観察
・解釈
・対話
を通して作品理解を深める鑑賞方法である、と紹介しました。

作品を「正しく解釈する」のではなく、観察と対話を通して「考える力を育てる」点が特徴で、美術館教育だけでなく学校教育や家庭の鑑賞にも応用できるのが魅力的ですよね。

今後、対話型鑑賞の具体的な進め方についても記事を作成していく予定ですので少々お待ちください

  • この記事を書いた人
美術館学芸員

りん

現役の美術館学芸員。一度は一般企業に内定を貰うも、その後大学院に進学し学芸員の道へ。公立館・私立館どちらも経験しています。実体験を交えたリアルな情報を発信中!

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