この記事では、美術館のレポート・感想文の書き方を紹介しています。
もちろん博物館にも応用可。
読みながら一緒に書いていけば、苦手な方でもオリジナリティある美術館レポートを書くことができますよ!
筆者について
現役の美術館学芸員です
» X @rinhwan_blog
- 美術史の修士号を取得
- 美術館の鑑賞講座を担当
- 普段から学生の美術館レポートを採点
本やサイトのテンプレに沿っただけのレポートは、読み手にもなんとなく分かってしまうもの
といっても、自分で一から書き始めるのは難しいし...
そんな方でも心配は要りません!
ご自身のレポートに応用しやすいよう、作品のどこに注目すれば良いのか、具体的な感想例を使いながら紹介しています。
主に中高生向けのイメージで書きましたが、内容は全ての世代に応用できるものです。
役に立つかも、と思ったところがあれば是非積極的に取り入れてみてください♪
美術館での鑑賞のコツ
まずは前提として、美術館での経験を最大限良いものにしましょう!
鑑賞あってこそのレポートですからね
※美術館でのマナーや、楽しく鑑賞するコツについては以下の記事で紹介しています。
本記事とあわせて参考にしていただけると嬉しいです
美術館レポートの構成
まずは、ざっくりした流れを作ってみました。お手元に置きつつ本文を読んでみてください。
※今の時点でよく分からなくてもOK!
レポートの長さはそれぞれかと思いますが、以下は大まかな流れの具体例です
例
有名な画家と聞いたのでマティス展に行くことにした。最初の展示室で作品を見た時は、誰でも描ける下手な絵だと思った。でも展示室を進むにつれて、最初に見た作品とは印象が異なる作品もたくさんあると気づいた。同じ画家の作品にも、こんなに色々な技法と画法があるなんて驚いた。一つの作品だけではその作者を判断できないと分かった。
では各項目について具体例を載せながら詳しく解説していきますね
(③ B. については一部省略します)
その美術館・作品を選んだ理由
冒頭は素直に直感を書くのがオススメ
感覚的なことで構わないので、直感を素直に書きましょう。
「CMでやっていて豪華そうだったから」
とか
「絵より彫刻の方が立体的で表現が分かりやすそうだから」
とか、そういう理由でもOKです。(もちろん「気になる作品があったから」でもOK)
特にレポートの掴みは、嘘偽りない自分の言葉で始めるのが良いでしょう
先生は他の多くの生徒のレポートも読みますから、冒頭がテンプレートのようだと続きを読むのが疎かになってしまいます。(先生も人間ですから...)
大切なのは、以下のこと
冒頭の直感は最後のまとめで使いたい
前述した直感の例を使うと、
「実際に行ってみたら、ただ豪華なだけではなくて○○という所に展示の工夫を見つけた」
「平面を表現しようとした彫刻家がいることを知って、絵と彫刻は深く結びついているのだと感じた」
など、最初に述べた理由を生かした感想をレポートの最後に入れると「美術館に行って学んだこと」を伝えやすくなります。
美術館や作品についての情報
レポートの中では、感想を書く作品や展覧会についての基本情報を書く必要があるでしょう。
作品なら、タイトルや主題、作者、制作年などはもちろんのこと、作品が描かれた社会的な背景について調べるのも良いですね。
実は、レポートをほぼ完成させてから作品の情報を書いてみるのもオススメです
というのも、最初に情報を書こうとすると、自然とホームページやチラシの引用になってしまいがち。
一方で自分の感想や考えを書いた後だと作品理解が深まっているので、自分の言葉で書くのが楽になっているじゃず。
なので、無理に作品情報を最初に書かなくても大丈夫です。情報収集・勉強はレポート執筆と並行させましょう!
情報収集に役立つ書籍・映画・サイトも紹介しているので、興味がある方は是非。
作品に対する感想・考え
作品を目の前にした「第一印象」を書く
作品を「実際に目の前にした」第一印象を書きましょう!
「目の前にしてみると想像よりずっと大きくて圧倒された」
「画面ではわからなかった立体感を感じた」
「展示室の装飾も相まって作品の世界に浸ることができた」
など、書籍や映画では得られない気づきもまた、美術館のレポートを書く醍醐味です。
「誰でも描けそう」「色が激しすぎて好きじゃない」など、ネガティヴな第一印象でもOK
作品の第一印象が良くなかった場合は、「でも展覧会を通して作品に対する見方が変わった」「作風は好きではないが、試行錯誤の過程を見て作者が目指していたことが分かった」などの方向性でレポート締めくくると良いでしょう。
作品の「材質」を観察する
作品の材質(=なにで作られているか)に注目すると、たくさんのことが分かります
絵画を例に挙げてみますね。
作品画像は各材質の参考として挙げています。
油絵なら
たっぷりの絵の具が盛り上がって立体的になっていませんか?絵の表面がキラキラ光っていませんか?
→ 盛り上がっているところは大胆で活発な感じがする!
→ 油でキラキラしているから、水面が本物のように綺麗に見える
水彩画なら
繊細な筆の跡が見えませんか?水が多めで薄い色だったら、その下に紙の凸凹や質感が見えませんか?
→ 淡い色味を使っていて、涼しく薄暗い感じがする
→ 紙の凸凹が見えるから写真のようなリアルさはないけど、「手書き感」が出ていて温かい気持ちになる
鉛筆なら
ぐっと力を込めているところと、うす〜く力を抜いているところが分かりませんか?
→ 黒色だけなのに、力の入れ方で立体感が分かる!
→ あえて鉛筆だけで書いているのは、色じゃなくて物の形に集中したかったからかな?
このように、材質が「作者の表現したかったこと」や「絵の雰囲気」に一役買っていることに気づくでしょう。
※作品に集中するあまり、ぶつからないように気をつけてくださいね
作品の「色」を観察する
色を観察するなんて当たり前では?
と思う人もいるかもしれませんね。
「人の肌は肌色に塗られているし、水は青いな」
それだけだともったいないんです!
先入観でそう思っていませんか?本当に作品を見て色を認識していますか?
自分で絵を描こうとすると良くわかりますが、人は先入観で色を決めている節があります。
水=青、木=茶色、葉っぱ=緑。みたいに。
私は曇りの日にツルツルした葉っぱを見ると、葉脈の窪みに合わせて表面が白く光って見えます。
一方で同じ葉っぱを夕方に見ると、葉っぱ全体がオレンジ色がかって「秋っぽいな」なんて感じるのです。
重要なのは、あくまで私(筆者)にはこう見えているということ。
ほかの人にはそうは見えない(感じない)かもしれません。
つまり、絵に葉っぱが描かれていたら、それは作者が感じた葉っぱの色をしているということ。
当然のようで、これってすごく大切なことなんです
そして作者が「夕日に当てられたオレンジ色がとても素敵だ」と感じれば、その美しさを効果的に伝えるために実際に見ているよりもオレンジ色を濃くした葉っぱを描くかもしれませんね。
自分が強く惹かれたものや、人に伝えたいと思ったものは、当然強調して描くこともあるでしょう。
だから、時には鑑賞者が「現実にはありえない」と感じる色の絵もあります。
病弱な妻の絵を描く時に、実際の顔色よりもピンク色で血色の良い顔色に描く。こんな願いと希望を込めた色の決め方もあるかもしれません。「肌色」一色ではなく、思いのこもった複雑な色です。
色を観察する時のポイント
自分が普段見ている色と違う色で描かれているなら、「なぜ作者はこの色で描いたのか」「何が伝えたかったのか」考えて見てください。正解や不正解はありませんから、自由に想像してみましょう!
★ 作品の主題と絡めて考察する
今度は、作品には何が描かれているのか(=主題)についてです。
人?動物?実際の風景?ありえない光景?何かよくわからない模様?
見て簡単に分かるものもあれば、難しい歴史の出来事や神話の物語の場合もあるでしょう。
そういったことの多くは、作品解説のパネルに書いてあったり、本で調べられたり、展覧会のHPを見たりすれば分かること。ですのでその部分は割愛します。関連する書籍などを調べてみましょう。
美術館のレポートでは、その主題と(さきほど説明した)材質や色との関わりについて自分なりに考えてみることが大切。
作品例①
- 歴史的な戦いの場面を描いている(主題)
- 絵の具が盛り上がった油絵(材質)
- 赤や青、黄色などの原色が目立つ。全体的に白っぽい(色)
これらの関係を考えると...
絵の具の凸凹と強い色使いが、荒々しい主題と合っている。画面が白っぽくて明るく神々しいから、この戦いは作者にとって何か希望になるような出来事だったのかもしれないと思った。
作品例②
- 庭でくつろぐ家族の様子を描いている(主題)
- パステル特有のぼかしが効いている(材質)
- 暖色でまとめられていて、使われている色は少ない(色)
これらの関係を考えると...
パステルのふんわりした柔らかい質感から、作者の家族に対する温かい気持ちを感じ取ることができる。使われている色が少ないからこそ、質素で牧歌的な暮らしの様子が伝わってきた。色は多く使うほど表現の幅が広がると思っていたけれど、色の種類を抑えることで伝えられることもあるのだと気づいた。
こんな風に作者がどんな風に主題を表現しようとしたのかについて書ければ、作品をよく観察し自分で考えたことが伝わりやすいですよ。
書くことに困ったときは、こんな視点も
他に感想が思いつかない....
そんなときには、
- 作者や作品の来歴
- 作品の額縁
- 展示室の工夫
などに触れるのもあり。
例えば、
- 作者は目の病気でどんどん目が見えなくなっていったそうだ。それでも諦めず、最後まで絵を描き続けた情熱には心を打たれた。
- 額縁が控えめで作品の雰囲気を引き立てていた。
- 大きい作品がある部屋はスペースが広く取られていたから、遠くから眺めることができて良かった!展示室の作り方も大切なのだと思った。
など、作品以外にも様々な視点からレポートに幅を持たせることができます。
美術館レポート【締めくくり】のポイント
作品の第一印象に対してレスポンスする
『作品を目の前にした「第一印象」を書く』で前述した通り、第一印象の変化について書きましょう。
だからといって無理やり「嫌い→好き」という結論にする必要はありません。
嫌いなままだったら「何故自分はこの作者の作品に苦手意識を持っている理由が分かった」や「一部の作品は嫌いだったけど、好きな作品もあった」などの着地点もあるでしょう。
実際に目の前にして見たことで得られた経験を書くとなお良し◎
自分が今後調べたいことを述べる
ロートレック展を通して、19世紀末の退廃的な社会に興味が湧いた。当時の文化についてもっと調べてみたい。
など、美術館に行って興味を持ったことについて触れ、今後に生かすような文章で締めくくるとまとまりが良くなります。
作品が描かれた社会背景のほかにも、同じ作者の別の作品や同じ時代に描かれた作品、同じ流派(例:印象派、写実主義、抽象表現主義、エコール・ド・パリetc….)について調べていくのも良いですね!
次は◎◎展や△△美術館にも興味が湧いてきた!といった意欲的な締めくくりも好ましいと思います。
文章の最後には、参考文献も掲載する
また、美術館レポートを書く際に参考にした書籍やホームページがあれば必ず記しておきましょう。(直接引用していない場合でも!)
むやみに列挙するのは良くありませんが、質の良い参考文献が列挙されていれば、きちんと調べ物をしたことが読み手にも伝わります。
私もレポート採点の際は参考文献欄に必ず目を通しますよ
美術館レポートで意識してほしいこと【まとめ】
材質や色、主題以外にも作品への注目ポイントは山ほどあります。
形や視点、構図などは、慣れていないとコツがいることも。
まずは、「作者はどんな材質や色を使って、主題を表現しようとしたのか」を書いてみること。
そして、作品の第一印象が変わったならそれについても書くこと。
これを抑えれば、オリジナリティのある美術館レポートが書けると思いますよ