対話型鑑賞(VTS)のやり方ってシンプルなはずなのに、いざやってみると難しく感じませんか?
質問は知っているけど、会話が続かなかったり、つい答えを説明してしまったり…。
でも実は、進め方のコツはそれほど複雑ではありません。
この記事では実際の進め方を会話例とともに解説、「よくある困りごと」への対処法も考えます!
筆者について
美術館学芸員です
» X @rinhwan_blog
- 公立・私立美術館双方で勤務経験あり
- 美術館で対話型鑑賞ワークショップやギャラリートーク、美術講座などを担当
そもそも「対話型鑑賞って何?」という方は「対話型鑑賞(VTS)とは?美術館の鑑賞教育とその教育効果」をご覧ください。
作品の見方のコツから知りたい方は、こちらの記事もおすすめです。
対話型鑑賞(VTS)の基本の流れ
対話型鑑賞は、次のようなシンプルな流れをぐるぐると繰り返しながら進みます

- 作品をじっくり見る
説明せずにまずは作品を観察します(30秒〜1分ほどでOK!) - 「何が起きていると思いますか?」と質問する
質問はできるだけ短くするのが原則! - 発言を言い換えて全体に共有する
「〇〇さんはこう感じたと言っています」
誰かが話していても意外とちゃんと聞いてない人もいたりするのがリアルなので、一旦進行役が全員に共有した方がいいです。これにより「個人の考え」が「みんなで検討すべき仮説」になります。 - 「どこからそう思いましたか?」と聞く
- 他の人にも問いかける
「ほかに気づいたことはありますか?」 - 観察が深まるまで対話を続ける
対話型鑑賞の3つの基本質問
では、VTSの核心、重要な3つの問いについて詳しく解説します。
この絵で何が起きていると思いますか?
最初の問いは、解釈を引き出す質問「この絵で何が起きていると思いますか」?です。
どこからそう思いましたか?
どうしてそう思ったのか、根拠を探す質問「どこからそう思いましたか?」
ここで地味〜に大切なのは、進行役が「つまり、この絵は○○を表していますね」などとまとめないことです。
意見に連鎖が起きて面白い流れが生まれる場面でもあるので、無理に会話をきりあげないようにしましょう。
※具体的な進め方は【対話型鑑賞の進め方|実際の対話の例】にあげます。
ほかに気づいたことはありますか?
意外とできないのが「待つ」ということ。
対話型鑑賞では沈黙も大切な思考の時間です。
対話型鑑賞の進め方|実際の対話の例
まずは実際の対話の例をあげます(シンプルver.)
この絵で何が起きていると思いますか?
この人、怒っていると思います
〇〇さんは、この人物が怒っているように見えるそうです。どこからそう思いましたか?
顔が怖いからです
顔の表情が怖いように見えるんですね。ほかに気づいたことはありますか?
後ろの人も同じ方向を見ている気がします
このように対話型鑑賞では、
- 発言を否定せず受け止める
- 内容を言い換えて全体に共有する
- 根拠を作品の中に探す
という流れを繰り返しながら、作品の観察を深めていきます。
もし機会があれば、ご自身でも次の3つの質問を問いかけながら作品を見てみてください
- この絵で何が起きていると思いますか?
- どこからそう思いましたか?
- ほかに気づいたことはありますか?
対話型鑑賞は、この3つの問いの繰り返しです!
対話型鑑賞でよくある場面と対処法
ここまで対話型鑑賞の流れを紹介してきましたが、実際にやってみると、ま〜そんなにうまくいきません(笑)
例えば、こんなことはよく起こりますよね。
- 誰も発言しない
- 「なんとなく」と言う
- すぐ答えを聞きたがる
- 知識を言い出す子がいる
こうなったらどうれば良いのか、私なりに書いてみますね。
誰も発言しないとき
VTSに慣れていない場合、特に最初の場面で沈黙はよく起こります。
沈黙の原因は
- 正解を言わないといけないと思っている
- 質問が抽象的で何を言えばいいかわからない
であることが多いので、
「この絵の中で、一番最初に目に入るのはどこですか?」(正解がない)
「人物は何人くらいいそうですか?」(答えやすい)
など、一歩具体性を持たせて作品の中の要素を見つける質問に変えてみると良いでしょう。
「なんとなく」と言われたとき
これも実践の場ではあるあるですよね〜...
焦って「何か言わせなければ!」と思ってしまいがちですが、理由は強要しなくて大丈夫。
「なんとなく」と言う子は、「まだ言語化できていないだけ」だったり「目の付けどころがよくわからない」だけであることが多いです。
その場合は、見るポイントを少しだけ示すと話しやすくなります。
たとえば
- 観察のヒント(選択肢)を出す
「表情でしょうか?それとも体の向きかな?」 - 他の人に振る(別の視点がでる)
そのあと、「今の意見を聞いてどう思いますか?」と戻す。 - 自分(進行役)が観察を一つ示す(議論の起点を与えます)
などのアプローチをしてみましょう。
すぐ答えを知りたがるとき
「で、正解は何?」と聞かれると「作品の見方に正解はありません!」などと言いたくなるところですよね。
でもそれだと聞いた子は、「正解は何?」と聞くことは不正解!と否定された気持ちになるかもしれません。
ここではもう少し対話を進めつつ「すぐに答えを出すのではなく、まず作品をよく見て考える時間を大切にする」姿勢を見せましょう。
知識はあっていいけど、最後に置く。
これがVTSの原則です。
なぜ先に答えではだめ?
「作品を見る」行為が答えあわせの時間になってしまうから
知識を話し始める子がいるとき
まず一番大事なのは 「知識を否定しない」ことです
その子は作品の作者や時代背景などについて勉強するのが好きなのかも。
それ自体はもちろん素晴らしいことです。
ですが、作品の観察からスタートする対話型鑑賞においては、視点を作品に戻す必要がありますね。
そういう見方もありますね。この絵のどこからそう思いましたか?
いまの話を聞いて、ほかの人はどう思いますか?
など、その知識を鑑賞の足掛かりにして会話を広げると良いでしょう。
対話型鑑賞に向いている作品
対話型鑑賞は、どんな作品でも行うことができます。
ただ、対話が広がりやすい作品にはいくつか共通した特徴があります。

例としていくつか作品を紹介します。

グラント・ウッド《アメリカン・ゴシック》1930年、カンヴァスに油彩、シカゴ美術館
人物が2人だけですが、「この2人はどんな関係?」「なぜこんな表情?」と自然に解釈が広がります。表情・姿勢・持ち物など観察ポイントも多いです。

エドワード・ホッパー《ナイトホークス》1942年、カンヴァスに油彩、シカゴ美術館
夜のカフェにいる人々の関係や状況がはっきり説明されていないので、「何が起きている?」「この人たちはどんな気持ち?」と議論が広がりやすい作品です。
ここでは有名作品を紹介しましたが、モナリザのような超有名作品の場合、いわゆる「答え」を知っている人が多すぎて対話が止まることも。
先に挙げた「人物」「状況」「謎」が揃う作品ならかなり対話が動きます。お好きな作品で楽しみましょう!
作品選びの注意点
《記憶の固執》などのシュルレアリスム作品は、不思議な要素が多く、一見すると議論が広がりそうに見えます。
ただし、人物の関係や出来事よりも象徴的な表現が中心になるため、解釈が抽象的になりやすい作品でもあります。
対話型鑑賞に慣れていない場合は、少し難しく感じられることもあります。
対話型鑑賞は、特別な知識がなくても実践できますが、作品の背景を知ることで見方が広がることもあります。美術をもっと楽しみたい方は、本や映画から入るのもおすすめです。
子どもと対話型鑑賞をするコツ
対話型鑑賞をご自身のお子様と実践してみたい!という方もいるかもしれませんね。
特別な知識はいりません。いくつかのポイントを意識するだけで、対話は自然に広がっていきます。
🌟子どもと美術館、家庭でもできる美術鑑賞についての記事は鋭意作成中です。
作品を見ながら「何が起きているだろう?」「どこからそう思う?」と考えるだけでも、鑑賞の楽しみ方は大きく変わります。
美術館で作品を見るコツについては、こちらの記事でも紹介しています。
また、美術館で気をつけたいマナーについては、こちらの記事にまとめています。
まとめ|対話型鑑賞のおさらい
対話型鑑賞(VTS)は、特別な技術が必要なものではありません
3つの質問を手がかりに、見て、考えて、言葉にしていく。そのくり返しの中で、作品の見え方は少しずつ変わっていきます。
※美術館での作品の見方については、こちらの記事でも紹介しています。
うまく進めようとしすぎなくて大丈夫です。
まずは一つの作品を前に、「何が起きているんだろう?」と問いかけるところから始めてみてくださいね。
対話型鑑賞とは何か、その効果などについて知りたい方は、ぜひ以下の記事も参考にしてみてください。
とは?-思考力を育てる鑑賞教育-1.webp)




